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【「移住は“人との関係”がすべて」夫婦で切り拓いた地域との関わり方】湯目知史さん・由華さんご夫婦/2020年種子島中種子町に移住

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湯目知史さん・由華さん夫婦

宮城県出身の知史さんと、岩手県出身の由華さん。宮城県の大学時代に同じゼミで出会い、卒業後はともに東京へ。知史さんは共済団体に、由華さんはコンサルティング会社に就職し、結婚。それぞれの仕事を通して「地域での暮らし」や「地域づくり」への想いを育み、現在は種子島の中種子町で「チャレンジ拠点 YOKANA」を運営。地域との関わりを大切にしながら、自分たちらしい暮らし方と働き方を模索している。


Q:東京から離れるきっかけは何だったのでしょうか?

由華さん:
1年半ほど働くうちに仕事がルーティン化してきて、「次に進みたい」と思うようになりました。コンサルの仕事も“稼ぐ力”や“事業づくり”を学ぶための手段だったので、次は地域に入って実践したいと考えていたんです。
そんなとき「地域おこし協力隊」という制度を知り、調べてみたら種子島の中種子町で募集があると聞いて。「ここだ!」と思って、すぐに問い合わせ、夫にプレゼンしました。

Q:なるほど、家庭内プレゼンですね(笑)

知史さん:
そんなに仰々しいプレゼンじゃなかったですけどね(笑)

由華さん:
むしろ、もっとゴリ押しだったかも(笑)

知史さん:
僕は当時、特にやりたいことがなく、失うものも少なかったので、「気になるなら、やってみよう!」という感じで決めました。

Q:移住先として、なぜ種子島を選んだのですか?

知史さん:
僕たちは高校時代に東日本大震災を経験しました。地元である東北にはすでに地域づくりに関わる人が多くいたので、もっと未知の文化に触れてみたいと思い、あえて遠く離れた場所を探していました。
そんなときに中種子町の地域おこし協力隊の話を聞き、「ここなら新しいチャレンジができそうだ」と思い、応募しました。

Q:移住するときに不安はありませんでしたか?

由華さん:
ほとんど不安はありませんでした。何も深く考えずに来てしまったくらいです(笑)。役場の方々が親切で頼りがいがあり、商店街を歩いたときにも「ここなら何かできそう」と希望を感じました。それがかえってワクワクにつながったんです。

Q:地域おこし協力隊としての活動はいかがでしたか?

知史さん:
「移住定住促進および商工観光に関する業務」という、やや抽象的なミッションでした。前任の方はSNSや動画で発信していたようですが、僕たちは「仕事をしに来た」という意識が強く、何でもやるスタンスでした。
行政のルールや予算の仕組みも分からず、最初は戸惑い、迷惑もかけましたが、商店街を回る中で今の「YOKANA」の大家さんとも出会いました。

由華さん:
役場で必須の業務が少なかったので、自分で助成金を探すところから始めました。申請書は、コンサル時代の経験も活かして、夫にもチェックしてもらいながら仕上げていきました。
その助成金を活用するために、受け皿として「一般社団法人LOCAL-HOOD」を設立。助成金の採択が決まったタイミングで建物を探し、「建物の活用を活動の軸にしたい」と役場に提案しました。柔軟に対応してくださった当時の課長のおかげで、やりたいことに挑戦させてもらえる環境にしてもらうことができ、とても助かりました。

Q:移住して良かったこと、逆に大変だったことは?

知史さん:
移住前に仕事が決まっていたので、「仕事どうしよう」という不安がなかったのは大きかったです。住まいも役場が手配してくれて、スムーズにスタートできました。
ただ、役場、商店街、住んでいる地域のそれぞれで温度差があり、自分たちの立ち位置に迷った時期もありました。

由華さん:
地域の人たちから「こういう移住者でいてほしい」という期待を感じることがありました。でも、それが明確に言語化されて伝えられないので戸惑うことも多くて…。
あるとき飲み会で文句を言われたとき、笑顔で静かに聞いていたら、後から別の人に「よく我慢したね」と声をかけてもらって。それがきっかけで少し打ち解けられた気がしました。

お気に入りの居酒屋にて

Q:種子島でお気に入りの場所はありますか?

由華さん:
犬城(インジョウ)海岸が大好きです。島の東側にあって、いつもほぼ貸し切り状態。美しい地層やサンゴ、洞窟もあって歴史も感じられる場所です。アクセスが悪く観光地化されていないのも、逆に魅力です。

知史さん:
僕は、スーパーや郵便局で近所の人たちが世間話をしている風景が好きです。そんな日常の何気ない光景に、あたたかさを感じます。

犬城海岸

Q:チャレンジ拠点 YOKANAとはどのような場所ですか?

知史さん:
「チャレンジ拠点 YOKANA」は、2021年8月にオープンした複合施設です。地域で何か新しいことを始めたい人が、気軽に相談できる場所として立ち上げました。「任意団体をつくりたい」「空き家を改修したい」などの相談にも対応しています。
近くの種子島中央高校の先生から「総合的な学習(探究)の時間を地域と一緒にできないか」と声をかけてもらい、一緒にイベントを企画し、商店街を歩行者天国にする取り組みも行いました。

由華さん:
その時、美術部の高校生が看板イラストを描いてくれたのがきっかけで、卒業後も毎年描きに来てくれています。今では全国大会で賞を取るような学生になり、報告に来てくれるのが嬉しいです。

学生さんの絵(YOKANA内)

知史:
2階はゲストハウスとして活用し、地域内外の人が交流できる場にもなればと考えています。

Q:お二人がやってきたことを、誰かがここで体現できるような、そんな場所でもあるんですね。

知史さん:
はい。新しいことを始めたいけど最初の一歩が踏み出せない、という人たちの支えになれたらと思っています。行政書士として、補助金申請など実務面でもサポートできる体制を整えています。

由華さん
サポートを通して、NPO法人の設立に至った人もいます。その中には地元・西之表高校出身の若い方もいて、今ではその方が代表を務めています。最近では「よろず支援拠点」に相談したいという声も増え、私がよろずの相談員をしているので、つなげるケースも多くなりました。

Q お二人の今後のビジョンなどありますか?

由華さん:
中種子町に来た当初は、「地域に溶け込んで、地域づくりができる人になりたい」と思っていました。地域おこし協力隊から現在まで活動する中で、その目標はある程度達成できたと感じています。
それでも今もここにいるのは、これまで関わってきた人たちを、これからも応援していきたいという思いがあるからです。ただ現実には、「お金にならないから続けられない」「大人になると無理だよね」といった声も多く聞こえてきます。
地域づくりが“余裕のある人の趣味”のように捉えられるかぎり、継続は難しい。私はそれを、“人生の楽しみ”や“仕事の一部”としてどう成り立たせるかを、ずっと模索しています。
ただ最近は、馬毛島の基地建設の影響もあり、地域全体が「まずは稼ぐこと」にシフトしていると感じます。行政の方針も、担当者やトップの考え方次第で大きく変わってしまう。そうした構造の中で、「自分に何ができるのか」と悩んでいる最中です。

地域づくりに本気で向き合いたい。でも、今の環境では自分自身が成長できないのでは、と感じています。目線を変える必要があるのではないか、という迷いもあります。
また、私と知史さんとでは、地域との向き合い方にも違いがあります。私は“仕事”として地域を見ることが強いですが、彼は“日常の暮らし”の中で人と関わっている。そのギャップも含めて、自分の立ち位置を見つめ直しているところです。

Q じゃあ今は、夫婦で「これからどうするか」を話し合っている段階なんですね。

由華さん:
はい。最近ようやく、お互いに大切にしたいことをきちんと言葉にして、すり合わせることができました。結論としては、それぞれの価値観を尊重しながらやっていこうという話になりました。

知史さん:
僕は今の「地域づくり」の枠組みに、少し限界を感じています。補助金や移住支援、ボランティア的な活動も多いですが、どこかで誰かが搾取されているように見える場面もありました。
善意で地域に関わってくれる人の“無償の思い”が、当然のように消費されてしまっている。それが受け入れられなくて、このままでは自分もその構造に加担してしまうのではと感じるようになりました。
だからこそ、「ちゃんと対価をいただいて価値を提供する」方が誠実なのではと考え、中小企業診断士の資格取得を目指しています。経営の視点から地域に貢献する道を探っているところです。
お金の話をすると「金儲けに走っている」と誤解されることもありますが、むしろ“地域経済を正しく回す”ことこそ、持続可能な地域づくりにつながると信じています。

由華さん:
私も現場で活動してきて、変えられない壁の存在を痛感しています。だからこそ、知史さんと同じように、視点を変える必要があるのだと思っています。

Q これから移住を考えている人に伝えたいことはありますか?

由華さん:
「楽しんだもん勝ち!人の目は気にしないで」と伝えたいです。
旅行やワーケーションと違って、移住は“人との関係”がすべてだと思います。私にとっては、商店街の大家さんがその存在でした。「この人がいるから大丈夫」と思える人が一人いるだけで、移住の楽しさがガラッと変わるんです。その人が笑ってくれるから頑張れる、そんな気持ちが原動力でした。

知史さん:
僕は「移住はただの引っ越し」だと思っています。都内での引っ越しと本質は変わりません。ただ、移住先は自分のために用意された場所じゃない。だから、起きることをどう捉えるかが大事です。損得で考える人には向いてないけど、「どう楽しむか」を考えられる人にはぴったりだと思います。

由華さん:
私たちが住んでいる家も築70年以上の古民家で、最初はかなりボロボロ。でも、海が近くて家賃も安い。「こんな家しかない」と思うか、「ここが拠点だ」と思うかは、自分次第なんです。雑草を刈ったり、ぼっとんトイレに慣れたり、虫と暮らしたり…そんな経験が、ちょっとずつ自分を成長させてくれた気がします(笑)。

知史さん:
アクシデントを楽しめる人は、移住向きですね。たとえば海外旅行でパスポートを失くしても「オモロ!」と思える人。大使館なんて普通行けないし「貴重な体験だな」って楽しめる感覚があると、きっと移住も楽しいですよ(笑)。
それから、僕たちにとって大きかったのは「夫婦で移住したこと」。価値観を共有できる相手がそばにいて、困った時に相談できる環境がある。それが心強かったです。

由華さん:
移住を通して、“エピソードトーク”がたくさん増えました。ちょっとした失敗やカルチャーショックも、後から話せば面白いネタになります。
「移住は、人生の物語を豊かにするもの」——そう思って、ぜひ一歩を踏み出してみてほしいです。

関連リンク

一般社団法人LOCAL-HOOD: https://localhood.studio.site/


ライター:小林史和

山梨県甲府市出身。2016年いちき串木野市の地域おこし協力隊をきっかけに移住。鹿児島を選んだ理由は「焼酎が好きだったから」。移住定住支援員というミッションの下、いちき串木野市を伝えるフリーマガジン『ALUHI(あるひ) 』を発行。協力隊任期終了後も、企画・編集など活動している。2021年〈まちとひとを伝えるもっとも最寄りな場所へ〉の想いを込めたカフェ「momoyori」を鹿児島市にオープン。県内2拠点生活中。

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